過去問の効果的な取り組み方

2023年6月29日

国語力・思考力の重要性がさけばれる昨今の中学入試。

秋から本格的に始まる過去問演習。その具体的な取り組み方を先にイメージしておくことで、夏の学習をより実りあるものにしましょう。

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」とは孫子の格言ですが、受験においてもこの考え方は大いにあてはまります。特に「己を知」ること、すなわち、志望校の要求に対する自分の弱点を分析し、その補強に努めることが何よりも重要と言えます。スポーツでいえば、過去問を解くのは練習試合のようなもの。実戦の経験を積むことも大切ですが、普段のトレーニングをおろそかにする選手が強くなれるはずありません。本気で合格を目指すのであれば、過去問は合否を占うものではなく、次に向けた学習課題や方針を明確にしてくれるものと捉えましょう。

以下に、過去問演習のおおまかな流れを示します。

⓪問題と解答用紙をコピーする

①問題を解く

②採点・解き直し

③過去問集に付属している平均点や合格者最低点と自分の得点を照らし合わせ、「合格にあと何点必要か」「自分は何が苦手か」を明らかにする

④参考書や問題集を使って、③でわかった弱点を補強する

→①にもどる

順を追ってポイントを説明します。

 まず⓪の「コピー」ですが、これが意外と大切です。過去問集の冊子に計算過程などを直接書き込むのは基本的にNGです。同じ問題をもう一度解こうと思ったときに不便だからです。必ず問題と解答用紙の両方をコピーしてください。解答用紙には実際のサイズと印刷するときの倍率が書かれていますから、なるべくそれに合わせて使うようにしましょう。考え方を書かせる欄や字数制限のない記述では、解答用紙が狭すぎると必要な文量がおさまりきらないおそれがあります。

 次に①の「問題を解く」ですが、気を付けたいのは「制限時間」です。本番の形式に近づけるため、本来ならばタイマーや腕時計を使って厳密に時間を計るべきですが、はじめのうちは時間が全く足りない、あるいは解ける問題が少なくて後半はすっかり手が止まってしまうということがよくあります。あくまで目的は弱点を見つけることですから、ある程度入試問題の形式や難易度に慣れるまでは、多少の時間の延長を認める、または途中で切り上げるといった対処をしても構いません。

 続いて②③の「採点・解き直し」ですが、ここが最も集中力と注意力を要するところです。漢字や表記の間違いがないか、「くんでマル」を正しくカウントしているか等、入念にチェックしてください。採点を終えたら、まず単純な書き間違い、計算ミス、問題文の読み間違いなどによる失点を集計しましょう。入試本番で一番恐ろしいのはこの部分なので、まずはこの手の「凡ミス」をゼロにすることが目標です。それが済んだら、時間をかけて考えたけれども解けなかった(間違えた)問題、または何となく勘だけで正解してしまった問題を重点的に解き直しましょう。解説をよく読んで、自分の考え方に誤りがあれば修正したり、必要な知識が欠けていれば補ったりというように、次に似た問題が出たら解けるようにすることを意識してください。また、手も足も出せずに空欄にした問題については、いったん保留して次の③に進みましょう。ここまで解き直した時点で、受験者平均点や合格者最低点は上回っている可能性が高いです。入試で満点を取る必要はありませんから、多くの受験生が取りこぼす難問にまで手を広げる必要はありません。これらのステップを子どもが一人で判断して完結させることはかなり無理がありますから、できる範囲で解き直しを終えたら、あとは塾の先生に相談するのがよいと思います。ちなみに、これはよくある誤解ですが、9~10月頃にはじめて解いた問題で受験者平均点に届いていなくても、全く悲観的になる必要はありません(むしろなってはいけません)。受験生のここから数か月の成長はすさまじいものがありますから、1月や2月時点の平均点と正面から比較するのはナンセンスです。はじめは取れなくて当たり前、そこからどれだけ伸ばせるかを前向きに考えてあげましょう。

 最後に④の「弱点補強」について。過去問演習を始めても、あくまで勉強時間の総量からすればこちらがメインと考えてください。私個人の経験ですが、②③の解き直しにかける時間が試験時間の0.5~1.5倍、④の補強にかける時間が3~5倍程度は必要だろうと思います。過去問を1年分4教科解くだけでも3時間ほどかかりますから、解き直しにおよそ3時間、弱点補強に少なくとも10時間で、合計16時間ほどはかかると覚悟してください。並行して塾の授業や宿題もありますから、1週間にあつかえる過去問は1年分か、どんなに多くとも2年分までに留めるようにしましょう。子どもにとっては地道な復習よりテストを解くほうがずっと刺激的なので、ついいっぺんに何年分も解いてしまう場合があります。それでは消化不良を起こすのが目に見えていますし、必ず科目ごとのムラが生じますから、ペースや勉強時間の配分についてもやはり塾の先生からアドバイスを受けてください。

 

 入試からの逆算でいえば、時間をきっちり計って上手に得点できるように練習するのは、本番の2~3か月前にあたる11月以降で十分間に合います。9~10月は、まず上記の①~④のサイクルをきっちりこなすことを体で覚えましょう。夏休みは絶対に落とせない基礎知識や典型的なパターンを集中的に復習するまたとない機会ですから、全分野から出題される過去問にとりかかる前に、ここでしっかり準備を整えましょう。また、夏に入る前に志望校の過去問に少し目を通しておくと、具体的に今後の勉強のイメージがわいて、長い夏を乗り切るためのモチベーションアップにきっとつながります。親も一緒になって、国語で出題された文章を読んだり、目に留まった問題を1問だけでも解いたりするとより効果的でしょう。

(2023年6月浦安新聞掲載)